インボイス制度の対応ガイド|中小企業・個人事業が今すべきこと
「インボイス制度、結局うちは何をすればいいの?」制度は2023年10月に始まったものの、具体的に何をどうすればいいか曖昧なまま、という事業者は少なくありません。やることは、立場ごとに整理すればシンプルです。
結論を先にいうと、対応の出発点は「自社が売手か買手か、課税事業者か免税事業者か」を確認することです。売手なら登録番号の取得と請求書様式の見直し、買手なら取引先の確認と適格請求書の保存、免税事業者なら登録の要否と2割特例などの負担軽減措置の検討が中心になります。
この記事では、インボイス制度の基本と、中小企業・個人事業が取るべき対応を、売手・買手の立場別に整理します。金額・割合・期限は国税庁の最新情報(2026年6月時点)で確認した値を載せています。
⚠️ 本記事は制度の概要をわかりやすく解説するものです。制度の詳細・最新の取り扱い・個別の判断は、国税庁の情報や税理士など専門家に必ずご確認ください。
インボイス制度とは(3行で)

- 正式には「適格請求書等保存方式」。消費税の仕入税額控除のしくみに関する制度です。
- 買手が仕入税額控除を受けるには、原則として売手が発行する**適格請求書(インボイス)**の保存が必要になりました。
- 適格請求書を発行できるのは、税務署に登録した「適格請求書発行事業者」だけです。登録すると「T+13桁の数字」(法人は「T+法人番号」)の登録番号が割り当てられます(国税庁 No.6498)。
なぜ対応が必要なのか

消費税は「売上で預かった消費税」から「仕入・経費で支払った消費税」を差し引いて納めます。この差し引き(仕入税額控除)の要件として、適格請求書の保存が必要になりました。
つまり、買手は適格請求書がないと原則として仕入税額控除ができず、消費税の負担が増える可能性があります。だからこそ、売手の登録状況が取引に影響します。ただし後述する経過措置や少額特例により、登録のない相手からの仕入れでも一定割合・一定額までは控除できる場面があります。
まず「自社の立場」を確認する

対応は、自社が次のどれに当たるかで変わります。
- 課税事業者で、売手:適格請求書を発行する側 → 登録と様式対応が必要
- 課税事業者で、買手:仕入税額控除を受ける側 → 取引先の確認と保存が必要
- 免税事業者:登録するかどうかの判断が必要
多くの事業者は「売手でも買手でもある」ため、両方の対応を確認しましょう。
売手側の対応

- 適格請求書発行事業者の登録:税務署に登録して「登録番号」を取得する。登録申請は e-Tax(パソコン・スマホ・タブレット)からも提出できます(国税庁 No.6498)。
- 請求書様式の見直し:登録番号・税率ごとの金額と消費税額を記載できる様式に直す
- システム対応:請求書ソフトや会計ソフトで適格請求書に対応する。クラウド型のfreee会計などは登録番号や税率区分の記載に標準で対応しています。
適格請求書の記載事項
国税庁(No.6625 適格請求書等の記載事項)では、次の6項目が求められています。
- 発行事業者の氏名・名称と登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目ならその旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額と適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 交付を受ける事業者の氏名・名称
小売業・飲食店業・タクシー業など不特定多数に販売する事業では、記載を一部省略できる「適格簡易請求書(簡易インボイス)」も認められています。簡易インボイスでは、上記4と5はどちらか一方の記載でよく、6(相手方の氏名・名称)の記載は不要です。
買手側の対応

- 取引先の登録状況を確認:主要な仕入先が登録事業者か
- 適格請求書を受け取り・保存:要件を満たす請求書を保存する
- 免税事業者からの仕入れの扱いを整理:後述の経過措置を理解しておく
免税事業者はどうする?

免税事業者にとっては「登録して課税事業者になるか、免税のままでいるか」が悩みどころです。判断材料を整理します。
- 取引先が課税事業者(BtoB中心):登録を求められる場面が増える可能性
- 一般消費者向け中心(BtoC):影響は比較的小さい
- 登録すると:適格請求書を発行できるが、消費税の納税義務が生じる
判断の軸はシンプルで、「登録しないことで失う取引・値引き要請」と「登録して納税・事務が増える負担」を比べることです。後者は次の負担軽減措置でかなり小さくできるため、まずは措置の中身を押さえましょう。
2割特例(売上税額の2割を納税)
免税事業者からインボイス発行事業者になった小規模事業者は、消費税の納付税額を「売上にかかる消費税額の2割」にできます。仕入の実額を集計しなくても、売上の消費税だけで納税額が決まるため、事務もぐっと軽くなります。
国税庁によると、現行の2割特例が使えるのは「令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」までです(国税庁 2割特例の概要)。さらに令和8年度税制改正で、個人事業者については令和9年分・令和10年分の申告で納税額を「売上税額の3割」にできる「3割特例」が新設されました(国税庁 令和8年度税制改正特集)。法人や令和11年分以降は対象外です。
たとえば、年間の売上が税抜500万円(消費税10%=50万円)の事業者が2割特例を使うと、納める消費税は「50万円 × 20% = 10万円」が目安になります(軽減税率対象がない場合のイメージ)。仕入や経費の領収書を集計して控除額を計算しなくても、売上の消費税だけで納税額が決まるのが大きな利点です。実際の税額は取引内容で変わるため、確定金額は申告ソフトや税理士で確認してください。
少額特例(税込1万円未満は帳簿のみ)
基準期間の課税売上高が1億円以下(または特定期間の課税売上高が5,000万円以下)の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて、適格請求書の保存がなくても帳簿の保存だけで仕入税額控除を受けられます。適用期間は令和5年10月1日から令和11年9月30日までです(国税庁 少額特例の概要)。少額の経費精算が多い事業者ほど、事務負担の軽減効果が大きい措置です。
免税事業者からの仕入れの経過措置(買手向け)
登録していない免税事業者などから仕入れた場合でも、当面は一定割合を仕入税額として控除できます。令和8年度税制改正で控除割合と期間が見直され、現行のスケジュールは次のとおりです(国税庁 令和8年度税制改正特集)。
| 期間 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 令和5年10月1日〜令和8年9月30日 | 仕入税額相当額の80% |
| 令和8年10月1日〜令和10年9月30日 | 仕入税額相当額の70% |
| 令和10年10月1日〜令和12年9月30日 | 仕入税額相当額の50% |
| 令和12年10月1日〜令和13年9月30日 | 仕入税額相当額の30% |
| 令和13年10月1日以降 | 控除不可(0%) |
※制度・金額・税率・割合は2026年6月時点の情報です。改正により変わるため、最新は国税庁等の公表情報でご確認ください。
なお令和8年10月1日以後に開始する課税期間からは、1人の相手先からの経過措置対象の仕入れ(税込)が年間(または事業年度)で1億円を超えると、その超えた部分には経過措置を使えなくなります(改正前は10億円)。経過措置を使うには、帳簿に「80%控除対象」などその旨の記載も必要です。
※各措置には適用要件・対象期間があります。自社が対象か・どの程度有利かは、必ず最新情報と税理士の確認を。
対応チェックリスト

- 自社は課税事業者か免税事業者か
- 売手として適格請求書を発行する必要があるか(→登録)
- 請求書の様式は登録番号・税率区分に対応しているか
- 請求書/会計システムはインボイス対応か
- 買手として、主要仕入先の登録状況を確認したか
- 適格請求書を要件どおり保存できる体制があるか
- 免税事業者の場合、登録の要否と負担軽減措置を検討したか
よくある失敗と注意点

対応を進めるなかでつまずきやすいポイントを挙げておきます。
- 登録番号を「もらった」だけで安心してしまう:取引先の登録番号は、国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で実在と有効性を確認できます。番号の桁・有効性をチェックせずに保存すると、後で控除が否認されるおそれがあります。
- 2割特例の「終わり」を見落とす:現行の2割特例は令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終了します。次の課税期間で本則課税か簡易課税かを選び直す必要があり、選択届出の期限管理が重要です。
- 少額特例の「1万円未満」を商品単位で判定してしまう:この1万円未満は、1回の取引(請求)単位で判定します。1商品ごとではないため、合算すると1万円以上になる取引は対象外です。
- 電子で受け取った請求書の保存ルールを混同する:メールやPDFで受け取った適格請求書は、電子帳簿保存法の電子取引データ保存のルールにも従って保存する必要があります。紙に印刷して保管するだけでは要件を満たさない場合があります。
税務・法務の最終判断は税理士等の専門家に確認を。自社の取引構成によって有利・不利が変わるため、迷ったら課税期間が始まる前に相談しておくと安全です。
システムで対応を楽にする

請求書の様式対応・税率区分・保存は、手作業だと負担とミスが大きい部分です。インボイス対応の請求書ソフト・会計ソフトを使えば、登録番号の記載や税率ごとの計算を自動化できます。
まとめ

インボイス制度の対応は、「自社の立場(売手/買手/免税)を確認 → 立場ごとの対応」が基本です。売手は登録と様式・システム対応、買手は取引先確認と保存、免税事業者は登録の要否と負担軽減措置の検討がポイント。判断に迷う部分は、必ず税理士など専門家に相談しましょう。
経理・請求まわりの効率化やシステム選びを相談したい場合は、業務の棚卸しから一緒に設計できます。お気軽にご相談ください。
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よくある質問
免税事業者のままでも大丈夫?
取引先と事業内容によります。取引先が課税事業者で仕入税額控除を必要とするBtoB中心の場合は、適格請求書発行事業者への登録を検討する場面が多くなります。一方、一般消費者向け中心なら影響は小さい傾向です。登録すると消費税の納税義務が生じるため、2割特例などの負担軽減措置も踏まえ、最終的には税理士に相談して判断するのが安全です。
適格請求書には何を書けばいい?
従来の区分記載請求書の記載事項に加えて、(1)適格請求書発行事業者の登録番号、(2)税率ごとに区分した対価の合計額と適用税率、(3)税率ごとに区分した消費税額等の記載が必要です。様式は問われませんが、これらの項目が漏れないようにします。
2割特例はいつまで使えますか?
国税庁によると、現行の2割特例は令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終了します。令和8年度税制改正で、個人事業者については令和9年分・令和10年分の申告で納税額を売上税額の3割にできる『3割特例』が新設されました。自社が対象かは課税期間で変わるため、最新は国税庁の情報と税理士で確認してください。
免税事業者からの仕入れは控除できなくなる?
経過措置があります。国税庁の令和8年度税制改正後の内容では、免税事業者等からの課税仕入れについて、令和8年10月から70%、令和10年10月から50%、令和12年10月から令和13年9月まで30%を仕入税額として控除でき、令和13年10月以降は控除できません。割合・期間は最新情報で確認してください。
結局、いつまでに何をすればいい?
登録は随時申請できます。売手側は『登録番号の取得→請求書様式とシステムの対応』、買手側は『取引先の登録状況の確認→適格請求書の保存体制づくり』が主な対応です。自社が売手・買手のどちらの立場でどう関わるかを整理することから始めましょう。