電子契約に印紙税がかからない理由|国税庁の根拠と課税される5つのケース
紙の契約書に貼っていた収入印紙が、電子契約にした途端に不要になる。年間で数十万円から百万円単位のコストが消える話なので、真っ先に確認したいところです。
ところが「電子契約は印紙税が非課税です」とだけ書かれた説明を読んで導入し、あとから「電子で締結したのに念のため紙も交わしていた」「紙で金額変更の覚書を作ったら印紙税がかえって高くなった」とつまずく会社が少なくありません。原因は、不要な理由を「非課税だから」と覚えてしまったことにあります。
正確には、印紙税法に「電子契約は非課税」という条文はありません。電磁的記録がそもそも課税対象である「文書」に当たらない、という整理です。この違いを押さえると、紙と電子が混ざったときの判断が自分でできるようになります。
※本記事は2026年7月時点で国税庁・e-Gov法令検索の公開情報を確認して整理した一般的な内容です。国税庁タックスアンサーは令和7年4月1日現在、質疑応答事例は令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく表示です。個別の文書が課税文書に当たるかどうかは記載内容によって変わります。判断に迷う文書は所轄の税務署または税理士にご確認ください。
結論:電子契約なら収入印紙は不要。ただし「非課税だから」ではない
先に結論を3行で整理します。
- 電子データだけでやり取りする契約に、収入印紙は不要。国税庁も明示しています。
- 理由は非課税規定があるからではなく、電磁的記録が印紙税法上の「文書」に含まれないから。課税の入口に入っていません。
- だから紙が1枚でも登場すると、その紙には課税され得る。電子化の節税効果は「紙を一切作らない・渡さない」運用とセットです。
紙の契約書にいくらの印紙が必要かという税額そのものは、印紙税と収入印紙の基礎にまとめています。本記事は「電子ならなぜ要らないのか」と「それでも要るケース」に絞ります。
なぜ不要なのか — 根拠の階層で確認する
「電子契約は印紙不要」という結論は同じでも、その根拠には条文・通達・国税庁見解・国会答弁という階層があります。順に見ていきます。
階層1:印紙税が課税しているのは「文書」だけ(印紙税法第2条・第3条)
出発点は条文です。印紙税法第2条は次のように定めています。
別表第一の課税物件の欄に掲げる文書には、この法律により、印紙税を課する。
そして第3条が、課税文書の「作成者」に納税義務があるとしています。つまり印紙税は「文書」を「作成」したという行為に課される税金です。ここに「電磁的記録」という言葉は一切登場しません。
一方、非課税を定めた第5条を読むと、その3つの号はいずれも「別表第一の課税物件の欄に掲げる文書のうち」を対象にしています。国や地方公共団体が作成した文書などが並ぶリストであって、電磁的記録はこのリストに載っているわけではありません。
つまり電磁的記録は、課税されるリストから除外されているのではなく、そもそも課税の入口に入っていない。ここが「非課税」という言い方が不正確な理由です(→ e-Gov法令検索・印紙税法)。
階層2:「作成」の意味を定めた印紙税法基本通達第44条
では「作成」とは何か。国税庁長官が発する法令解釈通達である印紙税法基本通達の第44条が、こう定義しています。
(作成等の意義) 第44条 法に規定する課税文書の「作成」とは、単なる課税文書の調製行為をいうのでなく、課税文書となるべき用紙等に課税事項を記載し、これを当該文書の目的に従って行使することをいう。 2 課税文書の「作成の時」とは、次の区分に応じ、それぞれ次に掲げるところによる。 (1) 相手方に交付する目的で作成される課税文書 当該交付の時 (2) 契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書 当該証明の時
ポイントは2つあります。
- 作成 = 書類を用意すること、ではない。用紙に課税事項を記載し、かつ「目的に従って行使する」ところまでを指します。
- 相手に渡す目的の文書は、渡した時が作成の時。注文請書・受取書・請書などがこれに当たります。一方、契約書は「契約当事者の意思の合致を証明する目的で作成される課税文書」に当たるため、作成の時は同項(2)の証明の時です(国税庁の質疑応答事例「課税文書の作成時期及び作成者」でも、順号1の例示に請書・受取書、順号2の例示に各種契約書が挙げられています)。
この定義があるため、「紙を用意したが相手に渡していない」場合は作成に当たりません。電子契約では、そもそも渡すべき紙が存在しないので、なおさら作成に当たらないという結論になります(→ 国税庁・印紙税法基本通達 第7節 作成者等)。
なお通達は法令ではないため、e-Gov法令検索には収録されていません。原文を確認するときは国税庁のサイトを見てください。
階層3:国税庁の質疑応答事例が正面から答えている
条文と通達からの当てはめを、国税庁自身が示しているのが質疑応答事例「取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い」です。建設工事の請負で、紙の注文請書に代えて電子署名付きの電磁的記録をメール送信するケースについて、回答はこうです。
【回答要旨】印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、**電磁的記録は文書に含まれません。**したがって、おたずねの電磁的記録に印紙税は課税されません。
関係法令通達として挙げられているのは印紙税法第2条のみ。非課税規定である第5条ではありません。国税庁自身が「非課税」ではなく「文書に含まれない」と書いている、という点を押さえてください(→ 国税庁 質疑応答事例)。
階層4:福岡国税局の文書回答事例には「理由」が書いてある
質疑応答事例は結論だけで、理由づけは書かれていません。理由まで読めるのが、福岡国税局の文書回答事例「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について」(平成20年10月24日)です。照会者の見解として、次の論理が示され、国税局がこれを是認しています。
注文請書の調製行為を行ったとしても、注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。
そして、この文書にはただし書きが付いています。
ただし、電子メールで送信した後に本注文請書の現物を別途持参するなどの方法により相手方に交付した場合には、課税文書の作成に該当し、現物の注文請書に印紙税が課されるものと考える。
電子化による節税が「紙を渡さない」ことに支えられていると分かるのが、このただし書きです(→ 福岡国税局 文書回答事例(別紙))。
階層5:政府答弁書 — 政府も「課税されない」と認めている
もう一段さかのぼると、第162回国会の政府答弁書(内閣参質一六二第九号・平成17年3月15日)があります。
事務処理の機械化や電子商取引の進展等により、(略)ペーパーレス化が進展しつつあるが、文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。
ただし文脈は誤解されがちです。質問者は「電子文書が課税対象外なのは不公平だ」と是正を迫っており、政府はそれに対して事実を認めたうえで、電磁的記録は改ざんが容易で法律関係の安定化への寄与が文書と同等とは言えない、と現状維持の理由を述べています。つまり政府が電子契約を優遇すると決めたのではなく、文書課税という制度設計の帰結として課税が及んでいない、という位置づけです(→ 参議院・答弁書第九号)。
「非課税」と言い切ると何を間違えるのか
ここまでの階層を踏まえると、よくある表現のどこが不正確かが見えてきます。
| よくある表現 | 正確な整理 |
|---|---|
| 電子契約は印紙税が非課税 | 電磁的記録は印紙税法上の「文書」に含まれず、課税物件が存在しないため課税されない |
| 印紙税法に電子契約の非課税規定がある | 非課税規定(第5条)は「文書のうち」の一部を除く規定。電磁的記録はそもそも対象外 |
| 国税庁が「電子契約は非課税」と明言 | 国税庁が書いているのは「電磁的記録は文書に含まれません」。非課税という語は使っていない |
| 電子契約なら絶対に印紙は不要 | 紙の現物交付・紙の変更契約書・印刷物への双方押印などで課税され得る |
「非課税」と覚えていると、「電子で契約したのだから変更も自由だろう」と誤った推論をしてしまいます。紙の文書を作成して相手に渡したかで考える癖をつければ、次の判定表は自力で読めます。
判定表:紙・電子・PDF・FAXで課税はこう変わる
実務で迷いやすいパターンを一覧にしました。
| ケース | 印紙税 | 根拠となる考え方 |
|---|---|---|
| はじめから電子データのみで締結(電子契約サービス・メール添付) | 不要 | 電磁的記録は「文書」に当たらない(印紙税法第2条) |
| 紙で契約書を作成・交付した後にPDF化して保存 | 必要 | 証明の時(交付目的の文書なら交付の時)に「作成」が完了し納税義務が成立済み(通達第44条第2項) |
| 電子契約で締結し、受け取った側が控えとして印刷 | 原則不要 | 印刷物はコピーと同様で課税文書として扱われない |
| 電子で送信した後、紙の原本も別途交付 | その紙に必要 | 紙の交付が「課税文書の作成」に当たる |
| FAXで送信(送信側は原本を手元に保管) | 不要 | 文書が交付されておらず課税物件が存在しない |
| 契約書を1通だけ作り、相手はコピーを保管 | 1通分のみ | 単なる写しには課税されない |
| 写し・副本に双方の署名押印や「原本と相違ない」旨の証明を付けた | 必要 | 写しでも契約成立を証明する目的の文書として扱われる |
印刷物とFAXの扱いは、国税庁「コミットメントライン契約に関して作成する文書に対する印紙税の取扱い」の問2が最も直接的な根拠です。
請求書や領収書をファクシミリや電子メールにより貸付人に対して提出する場合には、実際に文書が交付されませんから、課税物件は存在しないこととなり、印紙税の課税原因は発生しません。また、ファクシミリや電子メールを受信した貸付人がプリントアウトした文書は、コピーした文書と同様のものと認められることから、課税文書としては取り扱われません。
(→ 国税庁・コミットメントライン契約に関する印紙税の取扱い、国税庁タックスアンサーNo.7120)
電子署名の有無は印紙税の判断とは別問題
電子契約サービスを比較していると「立会人型か当事者型か」「電子署名の強度」といった論点が出てきますが、これらは印紙税の課税・非課税とは関係ありません。国税庁の質疑応答事例でも、電子署名を付したケースについて理由に電子署名は登場せず、「電磁的記録は文書に含まれない」とだけ述べられています。
電子署名の強度が効いてくるのは、印紙税ではなく裁判になったときの証拠力の場面です。方式の違いは電子契約サービスの比較と選び方で整理しています。
それでも印紙税がかかる5つのケース
電子契約に切り替えた会社が、実際にはまりやすいパターンです。
1. 電子で送った後に「念のため」紙の原本も渡した
最も多い落とし穴です。福岡国税局の回答が明示するとおり、電子メールで送った後に現物を持参・郵送して交付すれば、その紙は課税文書の作成に該当します。取引先から「紙もください」と言われたときに、押印済みの原本を渡すのか、単なる印刷物の控えを渡すのかで結論が変わります。
2. 電子で契約し、変更契約書を紙で交わした
紙の変更契約書は、当然ながら課税文書になり得ます。契約金額・支払方法・契約期間・仕事の内容など、契約上の重要な事項を変更する文書は、名称が「覚書」「念書」「合意書」でも印紙税法上の契約書として扱われます。
3. 電子契約を紙の変更契約書で増額した(最もインパクトが大きい)
これは知らないと確実に損をします。通常、契約金額を増額する変更契約書は、変更前の契約書があることが明らかであれば増加額だけが記載金額になります。ところが原契約が電子契約だと、この扱いが使えません。国税庁の質疑応答事例はこう述べています。
印紙税法上、電磁的記録は文書に含まれないことから、変更前の契約金額等を記載した文書が作成されていることが明らかである場合には該当せず、変更前の契約金額及び増加金額を記載していることから、変更後の金額(当初契約金額と増加金額の合計金額)が記載金額となります。
たとえば当初4,000万円のシステム開発の請負契約を、紙の変更契約書で1,000万円増額するケースを考えます。原契約が紙なら、記載金額は増加額の1,000万円と判定され、第2号文書の「500万円を超え1千万円以下」に当たって10,000円です。ところが原契約が電子契約だと、変更前の契約金額を記載した文書が存在しないため、記載金額は総額5,000万円と判定され、「1千万円を超え5千万円以下」に当たって20,000円になります。印紙代を減らそうとした電子化が、変更のたびに税額を倍にしてしまう構図です。電子で始めたら変更も電子で、が実務上の結論です(→ 国税庁 質疑応答事例、引用の可否について)。
4. 印刷物に双方が押印してしまった
前掲のとおり、受信側が印刷しただけならコピー扱いで課税されません。しかし、その印刷物に当事者双方が改めて署名押印したり、「原本と相違ない」旨の証明を付けたりすると、写しであっても契約の成立を証明する文書として課税対象になります。「電子で締結したけれど、紙のファイルにも押印して綴じておこう」という運用は避けてください。
5. 相手先ごとに紙と電子を併用している
同一内容の文書を2通以上作成すれば、それぞれが課税文書になります。取引先の都合で紙を残す運用が一部残っている場合、その紙の分だけ印紙税は発生し続けます。電子化の効果を試算するときは、「電子化できる契約」と「当面は紙が残る契約」を分けて数えるのが現実的です。
いくら削減できるか — 年間削減額の試算
削減効果は「1通あたりの印紙税額 × 年間の作成通数」で計算します。制作・開発の請負を月8件、取引基本契約を月1件、150万円前後の領収書を月10通発行している会社を想定すると、次のようになります。
📊 自社の数字で試算するなら:文書の種類と契約金額・年間件数を入れるだけで年間削減額が出る印紙税額 自動計算ツールをご利用ください。
| 文書 | 該当する号 | 1通あたり | 月の通数 | 年間の印紙税額 |
|---|---|---|---|---|
| 請負契約書(契約金額600万円) | 第2号文書 | 10,000円 | 3通 | 360,000円 |
| 請負契約書(契約金額250万円) | 第2号文書 | 1,000円 | 5通 | 60,000円 |
| 取引基本契約書 | 第7号文書 | 4,000円 | 1通 | 48,000円 |
| 売上代金の領収書(150万円) | 第17号の1文書 | 400円 | 10通 | 48,000円 |
| 合計 | 516,000円 |
税額は国税庁の印紙税額の一覧表(その1)・(その2)の段階に沿って計算しています。試算するときの注意点を3つ挙げます。
契約書を2通作っていれば単純に倍。当事者がそれぞれ原本を保管する運用なら、上の金額は2倍で見積もってください。逆に、1通だけ作って相手はコピーを保管する運用なら1通分で済みます(ただし証拠力・原本管理の面は別途検討が必要です)。
第1号文書と第2号文書は低額帯の刻みが違う。契約金額100万円の場合、不動産譲渡などの第1号文書は1,000円、請負の第2号文書は200円です。300万円を超えると両者は一致します。
建設工事の請負には軽減措置がある。平成26年4月1日から令和9年3月31日までに作成される、契約金額100万円超の建設工事請負契約書は税額が軽減され、500万円超1,000万円以下なら5,000円です。一方でWeb制作・システム開発・広告制作などの請負は軽減の対象外で、本則の1万円が適用されます。ここを取り違える解説が多いので注意してください(→ 国税庁タックスアンサーNo.7108)。
なお電子契約サービスの利用料は月額1万円前後からが目安で、送信ごとの従量料金が加わるのが一般的です。上の規模なら印紙税の削減だけで回収できますが、契約件数が少ない会社では郵送費・保管コスト・締結スピードまで含めて判断してください(クラウドサインの評判と料金)。
電子契約に切り替えるときの実務
1. 対象文書を棚卸しする
まず「どの文書に、いくらの印紙を貼っているか」を洗い出します。印紙代の大きい順に電子化すれば効果が早く出ます。特に効くのは、取引基本契約書のような第7号文書(金額にかかわらず1通4,000円)と、金額の大きい請負契約書です。
契約内容によって号が変わる文書もあります。業務委託契約書は、仕事の完成に対して報酬を払う請負型なら第2号文書、継続的な取引の基本条件を定めるなら第7号文書、準委任型なら不課税と、中身で扱いが分かれます。NDA(秘密保持契約書)は、秘密保持だけを定めるものであれば課税文書のいずれにも当たらないため、もともと印紙は不要とされるのが一般的です。ただし取引条件が混ざると判断が変わり得ます。
2. 電子帳簿保存法の「電子取引データ保存」に対応する
印紙税がなくなる代わりに、電子帳簿保存法上の保存義務が発生します。電子契約は同法第2条第5号の「電子取引」に当たり、第7条は「電磁的記録を保存しなければならない」と定めています。スキャナ保存が「代えることができる」(任意)と書き分けられているのに対し、電子取引データの保存は義務です。
令和3年度税制改正で、電子取引データを紙に出力して保存する措置は廃止されました。令和6年1月1日以後は保存要件を緩める猶予措置がありますが、これも要件を緩めるだけで、紙に印刷しての保存に代えることは認められていません。詳しくは電子帳簿保存法の対応にまとめています(→ e-Gov法令検索・電子帳簿保存法、国税庁 電子帳簿等保存制度特設サイト)。
3. 社内規程と押印ルールを直す
「契約書には代表者印を押す」という規程が残っていると、現場が電子で締結した後に紙にも押印してしまいます。これは前述のケース4に直結します。押印規程・文書管理規程を見直し、電子で締結した契約は紙に押印しない、紙の原本を交付しないという運用を明文化してください。
4. 取引先に説明し、合意を取る
電子契約は相手のあることです。「印紙代が浮くので」と自社都合で説明するより、締結までのリードタイムが短くなること、原本の保管・紛失リスクがなくなることを添えたほうが通りやすくなります。相手がアカウント登録なしで署名できる方式かどうかも、導入初期の摩擦を左右します。
印紙税が消えても残る論点:契約の有効性と証拠力
印紙税と契約の有効性はまったく別の話です。印紙を貼っていなくても契約そのものの効力に影響はないとされていますし、逆に電子契約に印紙が不要だからといって証拠力まで保証されるわけではありません。
証拠力の面で根拠になるのは電子署名法です。同法第3条は、電磁的記録について本人による一定の電子署名が行われているときは真正に成立したものと推定すると定めています。ここでいう電子署名は「本人だけが行うことができるもの」に限られるため、どの方式のサービスをどう運用するかが意味を持ちます。法的な位置づけは電子契約の法的有効性で詳しく扱っています。
もう一点、紙の運用が残る場合に押さえておきたいのが貼り忘れの制裁です。印紙税法第20条は、納付しなかった印紙税額とその2倍の合計、つまり本来の3倍を過怠税として徴収すると定めています(調査による決定を予知せず自主的に申し出た場合は1.1倍)。この過怠税は損金にも必要経費にも算入できません。紙を残すほどこのリスクを抱え続ける、というのも電子化の判断材料になります(→ 国税庁タックスアンサーNo.7131)。
まとめ
- 電子契約に収入印紙が不要な理由は「非課税規定があるから」ではなく、電磁的記録が印紙税法上の「文書」に含まれないから。国税庁も「非課税」ではなく「文書に含まれません」という言葉を使っています。
- 根拠は、印紙税法第2条・第3条 → 基本通達第44条(作成の意義) → 国税庁の質疑応答事例 → 福岡国税局の文書回答事例 → 政府答弁書、という階層で確認できます。
- 課税されるかどうかは「紙の文書を作成し、相手に交付したか」で判断します。この一点を押さえれば、印刷・FAX・変更契約書といった応用問題も自力で判断できます。
- 電子で始めたら変更も電子で。紙の変更契約書は課税されるうえ、増額時は記載金額が総額扱いになるため、税額が上がることがあります。
- 印紙税がなくなる代わりに、電子帳簿保存法上の電子取引データ保存義務が発生します。ここまでセットで設計してください。
まずは印紙税と収入印紙の基礎で税額の考え方を確認し、印紙代の大きい文書から棚卸しするのが近道です。判断が難しい文書は、所轄の税務署または顧問税理士に事前に相談してください。
よくある質問
電子契約に印紙が不要というのは国税庁の見解ですか?
はい。国税庁の質疑応答事例「取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い」で、『印紙税の課税対象となるのは、課税物件表の物件名欄に掲げられている文書であり、電磁的記録は文書に含まれません』と明示されています。ただし国税庁が使っている言葉は『非課税』ではなく『文書に含まれない』です。印紙税法に電子契約を非課税とする条文があるわけではなく、そもそも課税の対象である『文書』に当たらない、という整理です。この違いは、紙と電子を併用したときの判断で効いてきます(2026年7月時点)。
紙の契約書をPDFにすれば印紙は不要になりますか?
なりません。印紙税は文書を『作成』した時点、つまり契約書であれば当事者の意思の合致を証明した時点(相手方に交付する目的の文書であれば交付の時点)で納税義務が成立します(印紙税法基本通達第44条第2項)。紙の契約書を作って相手に渡した後でPDF化しても、成立済みの納税義務は消えません。逆に、はじめから紙を作らず電子データだけをやり取りするのであれば、課税の対象になる文書が存在しないため印紙は不要です。『後からPDFにする』のと『はじめから電子にする』のは、印紙税ではまったく別の話です。
業務委託契約書を電子契約にすれば印紙税はかかりませんか?
電子データのみでやり取りするのであれば、紙の業務委託契約書にかかっていた印紙税は不要になります。もともと業務委託契約書は、中身によって第2号文書(請負)、第7号文書(継続的取引の基本となる契約書・1通4,000円)、不課税のいずれにもなり得ますが、電子化すればいずれの場合も課税文書の作成に当たりません。ただし後から紙で変更契約書を交わすと、その紙には印紙が必要になります。
NDA(秘密保持契約書)にはもともと印紙が必要ですか?
秘密情報の定義・目的外使用の禁止・返還義務といった秘密保持のことだけを定めたNDAは、印紙税法別表第一に列挙された20種類の課税文書のいずれにも当たらないため、一般に印紙は不要と扱われています。ただし国税庁は『文書の名称や形式的な記載文言ではなく実質的な意味を汲み取って判断する』としており、NDAの中に業務の内容や報酬、取引条件が併記されていると課税文書になる可能性があります。判断に迷う文書は所轄の税務署か税理士にご確認ください。
電子契約を印刷して保管したら印紙が必要になりますか?
受信側が控えとしてプリントアウトしただけであれば、国税庁は『コピーした文書と同様のものと認められることから、課税文書としては取り扱われません』としています(コミットメントライン契約に関する取扱い・問2)。ただし、その印刷物に当事者双方が改めて署名押印したり『原本と相違ない』旨の証明を付けたりすると、写しであっても課税文書として扱われます。印刷はあくまで閲覧用の控えにとどめる運用が安全です。