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介護事業のIT活用ガイド|記録・BCP・補助金で人手不足に効く

介護事業のIT活用ガイド|記録・BCP・補助金で人手不足に効く

夜勤のスタッフが、利用者一人ひとりの居室を見て回り、戻ってきては手書きの介護記録を埋めていく。日中は申し送りのために全員の手が止まり、月末になると事務担当が記録を見ながら国保連への請求書をまとめ、加算の根拠書類を探して書庫を行き来する。求人を出しても応募はまばらで、ベテランが一人辞めるたびにシフトが崩れる。介護・福祉の現場では、こうした「記録と人手」をめぐる消耗が、いまも当たり前のように続いています。

そこに、BCP(業務継続計画)の策定義務やLIFEへのデータ提出、処遇改善加算の見直しといった制度対応が重なります。本記事では、介護事業の経営者がまず手をつけるべきIT活用を、人手不足・記録負担・制度対応という現場の課題ごとに整理します。料金や製品の細かい比較は専門の比較記事に譲り、ここでは「何から、どう進めるか」に絞ります。

まず効く一手は、この3つ

介護事業のIT活用でまず効く記録デジタル化・見守りインカム・シフト勤怠

細かいツール選びの前に、介護事業で負担軽減の効果が出やすい順に3つだけ挙げます。

  1. 介護記録のデジタル化 — 手書きと転記をなくし、記録・情報共有・請求を一本の流れにする。
  2. 見守りセンサー・インカムの導入 — 夜間巡回や応援要請の負担を減らし、職員の手と気持ちに余裕をつくる。
  3. シフト・勤怠の管理ツール — 複雑なシフト作成と労務管理を仕組みに任せ、管理職の残業を減らす。

この3つはいずれも「ケアに使える時間を増やす」方向の投資です。記録を整えておくと、後で触れるLIFEへの提出や請求業務、補助金の活用までが一つの線でつながります。順番に見ていきます。

介護・福祉が抱える3つの課題

介護・福祉が抱える人手不足・記録書類負担・BCP制度対応の課題

人手不足・採用難

介護分野は、有効求人倍率が他産業より高い状態が続く慢性的な人手不足の業種です。募集してもなかなか応募が来ない一方で、一人辞めればシフトが回らなくなる。採用の入り口を広げることも大切ですが、それ以上に「辞めない職場」をつくる定着の取り組みが効きます。後述する記録や見守りの効率化は、職員の負担を直接軽くするため、採用難そのものへの対策になります。

記録・書類業務の負担

介護記録、ケアプラン、各種報告、加算の根拠書類、国保連への請求。介護の現場は、ケアそのものと同じくらい「書く・転記する・探す」業務に時間を取られます。手書きを前提にすると、同じ内容を何度も書き写し、必要な記録を書庫から探すムダが積み重なります。ここをデジタル化できるかどうかが、現場の余裕を大きく左右します。

BCP・制度対応のプレッシャー

感染症や自然災害が起きてもサービスを止めないためのBCP策定が義務化され、LIFEへのデータ提出、処遇改善加算の要件対応など、制度面の負担も増えています。これらは「やらなければ報酬が減る」ものも含むため、後回しにできません。記録や情報共有のデジタル化は、こうした制度対応の土台にもなります。

記録のデジタル化が、すべての起点になる

介護記録のデジタル化から申し送り・情報共有・請求報告の土台につなげる流れ

介護のIT活用は、介護記録ソフトとタブレットの導入から始めるのが王道です。居室やリビングでその場で記録を入力でき、手書きと事務所での転記が一度に消えます。記録がデータになると、申し送りや家族への報告、加算の根拠づくり、国保連への請求までが同じデータでつながり、二重入力がなくなります。

記録と並んで効くのが、情報共有のデジタル化です。口頭と紙の申し送りをビジネスチャットに移すと、夜勤帯の連絡や急な体調変化の共有が記録として残り、言った・聞いていないのすれ違いが減ります。予定表やマニュアル、ヒヤリハットの共有をグループウェアで一元化すれば、施設全体の情報が一カ所に集まります。ペーパーレス化の進め方そのものは、紙業務をなくす手順も参考になります。

領域IT/ツールでの解決主な効果
介護記録介護記録ソフト・タブレット手書き・転記の削減、情報の即時共有、請求との連携
申し送り・連絡ビジネスチャット口頭・紙の申し送りを記録化、すれ違い防止
予定・マニュアル共有グループウェア施設全体の情報を一元化
シフト・勤怠勤怠・シフト管理複雑なシフト作成・労務管理の効率化
会計・経理会計ソフト記帳・申告の自動化、経営状況の見える化

製品ごとの料金や機能は各比較記事にまとめているので、ツール選びは比較記事を起点にすると迷いにくくなります。介護全体のデジタル化の方向性は、中小企業のDXの進め方もあわせてご覧ください。

見守りセンサー・介護ロボットで現場の負担を減らす

見守りセンサー・インカム・移乗入浴支援で介護現場の負担を減らす仕組み

記録の次に検討したいのが、**介護テクノロジー(介護ロボット)**です。なかでも導入のハードルが比較的低く、効果を実感しやすいのが次の3つです。

  • 見守りセンサー — ベッドや居室に設置し、利用者の起き上がりや離床、心拍・呼吸の状態を検知して職員に知らせます。夜間の定時巡回を必要な訪室に絞れるため、夜勤の身体的・精神的な負担が下がります。
  • インカム — スタッフ間でハンズフリーに会話でき、移乗や急変時の応援をすぐ呼べます。広い施設ほど、歩いて人を探す時間が減ります。
  • 移乗・入浴支援などの介護ロボット — 抱え上げや移乗の身体負担を機器が肩代わりし、腰痛による離職リスクを抑えます。

厚生労働省は、こうした介護ロボットの開発・普及を支援制度とあわせて推進しています(参考: 介護ロボットの開発・普及の促進(厚生労働省))。これらの機器は、後述する補助金や加算の対象になりやすい点も見逃せません。導入の可否は施設の構造や利用者の状態にもよるため、機器の選定は実機の試用や提供事業者への相談を前提に進めるのが安全です。

採用・定着の入り口を整える

介護事業の採用ページ・求人媒体・SNS・RPOと定着施策の全体像

効率化で職場の負担を下げたうえで、採用の入り口も広げます。

採用と同じくらい大切なのが**定着(離職防止)**です。記録・シフト・見守りの効率化で「働きやすい職場」をつくることが、結果的に採用難の緩和につながります。なお、人が増える職場ほどハラスメント対策の整備も欠かせません(→ハラスメント対策)。

義務化されたBCPと、LIFE・処遇改善加算への対応

BCP・LIFE対応・処遇改善加算を記録と情報共有の土台で支える整理

ITの効率化と並行して、避けて通れないのが制度対応です。ここはIT化の土台があると進めやすくなります。

BCP(業務継続計画)の策定は義務

感染症と自然災害の両方に備えるBCPの策定は、3年間の経過措置を経て2024年4月から義務化されました。2024年度の介護報酬改定では「業務継続計画未策定減算」が設けられ、その経過措置も終了したため、未策定のままだと介護報酬が減算されます。厚生労働省がガイドラインとひな形、作成支援の研修動画を公開しているので、ゼロから作るのではなく、それを土台に自社の体制へ落とし込むのが現実的です(参考: 介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修(厚生労働省))。BCPで定めた連絡網や安否確認は、ビジネスチャットやグループウェアと相性がよく、緊急時の情報共有手段としてそのまま活用できます。

LIFE(科学的介護情報システム)

LIFEは、利用者のADL(日常生活動作)や栄養・口腔・認知機能などの状態とケアの内容を一定の様式で提出すると、全国データと比較したフィードバックが返ってくる、厚生労働省が運用する情報システムです。2021年4月に、それまでのVISITとCHASEを統合する形で運用が始まりました。提出はLIFE関連加算の算定要件にもなっており、介護記録ソフトと連携させると入力と提出の手間を大きく減らせます。手書き運用のままだと毎回の入力が重い負担になるため、ここでも記録のデジタル化が効いてきます(参考: 科学的介護情報システム(LIFE)(厚生労働省))。

処遇改善加算の一本化と生産性向上

職員の賃金改善を支える処遇改善の加算は、2024年6月に「介護職員等処遇改善加算」へ一本化されました(従来の処遇改善・特定処遇改善・ベースアップ等支援の3加算を統合)。申請事務が簡素になった一方、職場環境を整える要件も求められます。あわせて2024年度改定では、見守り機器などのテクノロジー導入と業務改善の委員会運営を評価する「生産性向上推進体制加算」が新設されました。記録のデジタル化や見守りセンサーの導入は、こうした加算を取りにいくための土台にもなります。加算の算定要件は細かく、自治体ごとの運用差もあるため、最新の要件確認と判断は所管の自治体窓口や社会保険労務士などの専門家に相談しながら進めてください。

※制度は年度・自治体で変わります。加算の算定可否や減算の適用は個別事情で判断が分かれるため、最新の対象・要件は必ず公式情報・所管官庁・専門家にご確認ください。

補助金で導入コストを抑える

介護ITと介護テクノロジー導入で補助金を確認する流れ

介護のIT・機器導入には、専用の補助制度があります。

  • 介護テクノロジー導入支援事業 — 地域医療介護総合確保基金を財源とする補助制度です。令和7年度から、従来の「介護ロボット導入支援事業」と「ICT導入支援事業」が一本化されました。介護記録ソフトやタブレット、見守りセンサー、移乗・入浴支援ロボット、通信環境の整備などが補助の対象になります。補助率や上限額は年度・自治体・機器の種類によって変わるため、金額は確定せず、最新は各都道府県の窓口で確認してください。
  • IT導入補助金 — 介護専用ではありませんが、業務全般のソフトウェア導入に使える国の制度です。会計・勤怠・グループウェアなど、介護記録以外のバックオフィス系ツールはこちらが選択肢になることもあります(→IT導入を支える補助金)。

補助金は申請の時期や枠が限られ、年度で要件が変わります。制度全体の探し方と申請の流れは補助金・助成金ガイドにまとめているので、自社が使える制度を見つける起点としてご活用ください。AIの使いどころを含めた効率化の全体像は、中小企業のAI活用ガイドも参考になります。

導入の進め方と、つまずきやすい失敗例

介護事業のIT導入手順とつまずきやすい失敗例

おすすめの順番

  1. 記録と情報共有をデジタル化する — 介護記録ソフトとタブレット、チャットで現場の負担を直接減らす。
  2. 見守りセンサー・インカムを入れる — 夜間巡回や応援の負担を軽くし、定着につなげる。
  3. シフト・勤怠の管理を効率化する — 管理職の労務負担を減らす。
  4. 採用ページ・求人・SNSで入り口を広げる — 効率化で整えた「働きやすさ」を発信する。
  5. 補助金で導入コストを抑える — 制度の枠と時期を逃さない。

つまずきやすい失敗例

  • 現場を置き去りにする — 経営判断だけで機器を入れると、現場が使いこなせず定着しません。試用期間を設け、操作を覚える時間を業務として確保することが大切です。
  • 記録の運用ルールを決めずに導入する — ソフトを入れても、誰が何をいつ入力するかを決めないと、紙とデジタルの二重運用になりがちです。
  • 補助金ありきで機器を選ぶ — 補助の対象だからと選ぶと、現場に合わない機器が残ります。あくまで「自施設の課題を解く機器か」を先に判断してください。
  • 属人化したまま自動化する — ベテランの頭の中だけにある手順をそのままデジタル化しても効果は限定的です。先に業務を見直してからツールに載せ替えると効果が出ます。

まとめ

介護事業のIT活用で現場負担を減らし経営の安定につなげるまとめ

介護・福祉事業のIT活用は、**記録と情報共有のデジタル化で「現場の負担を減らす」**ことから始めるのが近道です。そのうえで見守りセンサーやインカムで夜勤の負担を軽くし、シフト・勤怠を効率化すれば、職員の定着と採用難の緩和につながります。BCPの策定義務やLIFEへの提出、処遇改善加算といった制度対応も、記録のデジタル化という土台があるほど進めやすくなります。導入コストは介護テクノロジー導入支援事業などの補助制度で抑えられるため、課題の優先順位を決めて一歩ずつ進めることが、経営の安定につながります。

「自社の記録のデジタル化・補助金活用・採用を相談したい」場合は、現場の状況に合わせて一緒に設計できます。お気軽にご相談ください

よくある質問(FAQ)

介護事業のIT活用に関するよくある質問の整理

Q. 小規模な事業所でもIT化の効果はありますか? あります。むしろ少人数ほど、一人あたりの記録・事務負担が大きいため、効果を実感しやすい面があります。まずは介護記録ソフトとチャットなど、負担の大きい一点から小さく始めるのがおすすめです。

Q. 高齢のスタッフが多く、操作についていけるか不安です。 タブレットの介護記録ソフトは、紙の様式に近い画面で、入力項目を選ぶだけの設計が増えています。導入時に操作を覚える時間を業務として確保し、得意なスタッフがサポートに回る体制をつくると、定着しやすくなります。

Q. 補助金は必ずもらえますか? いいえ。補助金には申請期間や予算の枠があり、年度ごとに要件が変わります。確実に受けられるとは限らないため、補助ありきではなく「自施設に必要な投資か」を先に判断し、使える制度があれば活用するという順番が安全です。

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よくある質問

介護事業のIT活用は何から始めるべきですか?

現場の負担が最も大きい『記録』と『情報共有』のデジタル化から始めるのがおすすめです。介護記録ソフトとタブレットを入れて手書き・転記をなくし、スタッフ間の申し送りをチャットに移すだけで、ケアに使える時間が増えます。あわせて、複雑になりやすいシフト・勤怠の管理ツールも効果が出やすい領域です。記録を整えておくと、後述するLIFEへのデータ提出や介護報酬の請求業務にもそのまま活きてきます。

介護の人手不足・採用難にITはどう役立ちますか?

求人媒体や自社の採用ページ、SNSで応募の入り口を増やせます。それ以上に効くのが定着で、記録・シフト・情報共有を効率化して『働きやすい職場』にすることが、採用難そのものの緩和につながります。見守りセンサーで夜間の巡回負担を減らす、インカムで応援を呼びやすくするといった現場の負担軽減は、離職防止に直結します。採用に手が回らないなら採用代行(RPO)の活用も選択肢です。

介護のBCP(業務継続計画)はいつまでに作る必要がありますか?

感染症と自然災害の両方に備えるBCPの策定は、3年間の経過措置を経て2024年4月から義務化されました。2024年度の介護報酬改定で『業務継続計画未策定減算』が設けられ、減算の経過措置も終了したため、2025年度以降は未策定だと報酬が減算されます。厚生労働省がガイドラインとひな形を公開しているので、まずはそれを土台に自社の体制へ落とし込むのが現実的です。

介護事業者が使えるICT・介護ロボットの補助金はありますか?

地域医療介護総合確保基金を財源とする『介護テクノロジー導入支援事業』があり、介護記録ソフトやタブレット、見守りセンサー、移乗支援ロボットなどの導入費が補助の対象になります。補助率や上限額は年度・自治体・機器の種類で変わるため、金額の確定はせず、最新の要件は各都道府県の窓口で必ず確認してください。

LIFEや処遇改善加算への対応にもITは関係しますか?

関係します。LIFE(科学的介護情報システム)はADLや栄養・口腔・認知機能などのデータを提出してフィードバックを受ける仕組みで、介護記録ソフトと連携させると入力と提出の手間を大きく減らせます。2024年6月に一本化された介護職員等処遇改善加算も、職場環境要件として生産性向上の取り組みが評価される方向にあり、記録のデジタル化や見守り機器の導入は加算の土台づくりにもなります。